無くした鏡

鏡を無くしてから、君は自分の姿を忘れてしまったようだね。

……おや、無くしたことに気付いていなかったのかな。もう何年も、自分の顔を見ていないだろう。その感じだと、最後に顔を見た日ももう覚えていないのではないかな。

君は今、どんな表情をしていると思う?

 

泣きそう?

笑ってる?

不機嫌?

それとも変顔をしているかな。

 

考えたことはあるか? 今、自分がどんな顔をしているのかを……。

姿を忘れた君は、自分が何者であるかを、ちゃんと知っているかい?

いや、答えずともわかっている。だから私が語りかけているんだ。

 

そろそろ思い出す時ではないかな。君がどう君であるのか。もう知る時に来ているんだよ。それは君も本当は気付いているだろう……。

鏡を無くしたことにしても、いつだって君はここにいるのさ。君は君からどこへも行かない。

 

さあ、鏡を手に。君のその鞄から。