忘れた頃に時々見る夢があった。
気付くとそこは宇宙空間で、僕はあてもなく漂っている。呼吸をしているかどうかはよくわからなくて、でもそこはかとない心地よさの中に浸っていると、そんな細かいことはどうでもいいような気になる。誰もいないのに誰かがいるような気がして、僕はあたりを見回すのだけど、そこにあるのは黒々とした空間と、燦然と輝く数え切れないほどの星たちが、静かに浮かんでいるだけだ。
「ねぇ」
僕は誰にともなく語りかける。
「僕のことを知っているのでしょう」
答えは返ってこないけれど、誰かが聞いているような気がした。
「知っているでしょう、僕のことを。いつも見ているのでしょう。
きっとずっと、そこにいるのでしょう」
返事はない。
それでいいと思ったけれど、そんな意思とは関係なく急に切なさが襲ってきて、僕は足を曲げて縮こまりながら体をぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫」
僕の声ではなかった。
後ろを振り向くと、ベージュでウェーブのかかった髪をした青年が、僕のことを優しい眼差しで包み込んでいた。
「僕が誰なのかは、君が知っての通りだよ」
「そう、僕は君のことをよく知ってる」
知っている。ずっと前から……
「僕が君のことを知っているように」
青年が言葉を引き継ぐ。
僕たちはただ見つめ合っていた。多くを語らなくてもよかった。宇宙にただこうしているだけで、僕たちは全てを"既に知っていた"。
そして僕は目を覚ます。
秒毎に朧げになっていく記憶のなかで一際強い味わいを残すのは、彼が最後に動かした口のかたちが教えてくれたただひとつの真実。それを口にするのが僕の毎日の――
「はじまりだから」