落雷

ときに人は雷に打たれると言う。

脳天から入った電気は、足へと伝わりそのまま大地へ抜けていく。
致死率は30%とも言われるこの現象は、生きるも死ぬも、当たるも当たらぬもそれこそ天任せだ。

その落雷が、今日俺の体を貫いた。

100万分の1の確率。いや。
この数字は疑わしいと、打たれた人間としては考えるわけだ。

雷に打たれた人の話は時折耳にすることがある。
そのうちのひとりに今俺はなったのだ。

時が止まったいま、自分が生きているのか死んでいるのか掴みあぐね、いや……

生きたのか、死んだのか、その答えを、
目の前で見つめるあなたの瞳に、問われている。

賞味期限

本には賞味期限がある。

よほど劣悪な環境でなければ、買われた本は綺麗に積もられたまま、しずかに読まれる時を待っているように思われるかもしれない。

迎えられたばかりの本は、瑞々しくて、ほのかに甘い香りを放っている。
けれど開かれず置かれていると、出会った時に試した味わいももう分からなくなってしまい、なんとなく褪せたように思われるものだ。

それが、本の賞味期限だ。
食べられるけれど、風味の保証はなされない。

試しのようなもの

人との繋がりと変化。蘇生しゆく意識。怠慢は流れのままに。

飛び出していく思い出と仲間。家族と放射状の流れ星。仰げばいずれ色褪せていく。

友はいつもその側に。普段とその都合に沿っていく楽しみと景色、それを遊ぶのもまた面白いこと。

果実は朽ちて仲直り。噴火の後に地は元どおり。さらになった城跡地。

 

今日もまたおはよう。

境の血龍

 事故だ。

 車内に収まっていたはずの僕の体は、夜道の硬いアスファルトの上に横たわっていた。

 助けを呼ぼうとか、起き上がらなければとか、そういうことを考える余裕もないくらい、体の様子が"わからなかった"。あるいは無意識に知っていたのかもしれない。

 視界の端に、買ったばかりの車が無残にひしゃげているのが見える。

 ああ、あれに乗れたのはほんの僅かな間だったなあ。もう運転はできないだろうな。

 そんなことを考えながら、おや、と思う。もう運転はできない? 何故そう思うのだろう? あの車を運転はできなくとも、もう一度車に乗る時が来れば……

 左足の惨状に気付いたのは、この時だった。僕の左足は途中から千切れて失われていた。

 その瞬間、全身が石にでもなったかのように、僕は一切の動きが取れなくなった。ただでさえぬくもりの感じられない体が、凍るように冷えた。上がらない悲鳴が頭の中を支配して、あるはずのない現実と絶対的な恐怖、そして遅れてやってきた痛みが、動けない僕に容赦なく襲い掛かる。他のことなどもう何も考えられなかった。意識も体もどこにも逃げることができない。絶望感に意識が遠くなりかける。

 突然、熱を持った何かが体の中を掻き回すようにグルグルと暴れだした。全身が痙攣する。左足が歪んだような感覚がしたのも束の間、千切れた脚から赤黒い液体が大量に吹き出して──そのまま蛇のようにとぐろを巻き、首をもたげた。

《お前の望むことはなんだ?》

 龍のような"それ"は、こう語りかけてきた。

「望むこと……?」

《そうだ。お前の望みはなんだ?》

 そう言って龍は僕を見下ろしている。口元に蓄えられたヒゲが風もないのに揺れている。角度が少し変わるたび鱗が表情を変え、その体がなみなみとした液体──僕の血液によって成っていることを思い出させられた。龍の荘厳な印象に、僕はただ圧倒されていた。

親愛なる君へ

君は愛の姿を知っているか?

誰もが知っているようでいて、その本当の姿を知っているのはほんの一握りなんだ。

 

僕らは人に愛の姿を教えるためにやってきた。

君は、愛とはどんな姿をしていると思う?

 

それは、どんな触り心地だろうか?

それは、どんな香りだろうか?

それは、生きているのだろうか?

 

知りたいことはたくさんあると思う。当然だ。君たちは愛によって生かされているからだ。

君たちを構成しているのは愛そのものなんだよ。

 

聞きたいことがあったらなんでも聞いてくれ。

私たちもまた、愛によって構成された存在だからだ。

無くした鏡

鏡を無くしてから、君は自分の姿を忘れてしまったようだね。

……おや、無くしたことに気付いていなかったのかな。もう何年も、自分の顔を見ていないだろう。その感じだと、最後に顔を見た日ももう覚えていないのではないかな。

君は今、どんな表情をしていると思う?

 

泣きそう?

笑ってる?

不機嫌?

それとも変顔をしているかな。

 

考えたことはあるか? 今、自分がどんな顔をしているのかを……。

姿を忘れた君は、自分が何者であるかを、ちゃんと知っているかい?

いや、答えずともわかっている。だから私が語りかけているんだ。

 

そろそろ思い出す時ではないかな。君がどう君であるのか。もう知る時に来ているんだよ。それは君も本当は気付いているだろう……。

鏡を無くしたことにしても、いつだって君はここにいるのさ。君は君からどこへも行かない。

 

さあ、鏡を手に。君のその鞄から。

アローラ冒険中、ムーンにて。

先週の食中毒事件を経てから家に籠もりがちになっているけれども、その原因にポケモンサン・ムーンの発売も関わっていることは間違いない。

ここ最近のポケモンでは今回が一番"ポケモン"をエンジョイしているような気がする。手持ちは全て新ポケモンで固めた。要素を隈なく味わっているので、ストーリーの進みはゆっくりめだ。

このモチベーションは身近に同じソフトをプレイする人がいることも影響しているように思う。最近はひとりで黙々と遊ぶことが多かったけれど、サンムーンでは一緒に遊ぶ相手がいるので、刺激を受けたりしている。対戦も結構した。勝ち越していたけど、ストーリー進行度が逆転してきたあたりから負けるようになってきた。

ポケモンから離れている時期もなんとなくあったりしたけれども(それでも全世代遊んでいる)、やはり今でもポケモンは自分にとって特別なソフトであるのだと思う。惹きつけられるもの、長く付き合いのあるものには、何かしら自分にとっての重要な要素を持ち合わせていると思っている。ポケモンにもそうした何かがあるのだろう。